2009年5月12日火曜日

シャルル・ヴァランタン・アルカン

シャルル・ヴァランタン・アルカン(Charles Valentin Alkan、1813年11月30日パリ - 1888年3月29日パリ)はフランスのロマン派の作曲家、ピアニスト。


略歴

本名はシャルル・アンリ・ヴァランタン・モランジュ (Charles Henri Valentin Morhange) といい、ユダヤ系の家庭に生まれた。アルカンは音楽家であった父の名であり、彼を含む兄弟すべてが音楽家としてアルカンを名乗った。幼くして神童といわれ、6歳でパリ音楽院に入学、ジョゼフ・ジメルマン(Joseph Zimmermann、1785年-1853年…シャルル・グノー、セザール・フランク、ジョルジュ・ビゼーらの師匠でもある)に学んだ。ソルフェージュ、ピアノ、作曲、オルガンでプルミエ・プリ(一等賞)を得る。1829年、室内楽のトリオを結成したが、その時のチェロ奏者はオーギュスト・フランショームであり、彼の仲介でショパンと親交を持つこととなる。

20代でリストやショパンと並ぶヴィルトゥオーゾ・ピアニストとして名声を確立した。しかしその後は親友のショパンの死や、ジメルマンの後継者争いに敗れた(この時教授になったのが同窓のアントワーヌ・マルモンテルである)こともあって表立って演奏することは少なく、自宅に閉じこもって一時は聖書やユダヤ教の経典タルムードの研究に没頭したという。その後は、1873年から年に6回のバロック音楽から自作を中心とした演奏会を1877年まで継続した。

最期も謎めいていて、宗教書の研究中に書棚が崩れ下敷きになったとも、台所で調理中に倒れたとも言われている。これはマキシミリアン・ドラボルドからの伝聞を、イシドール・フィリップが広めた説による。しかし、隠遁生活を送っている割には出版活動は没年まで継続しており、完全に世捨て人であったかどうかは疑わしい。パリのモンマルトル墓地に埋葬されている。


ショパンとは作品のやり取りはなかったが、ショパンはアルカンが主催した演奏会に賛助出演している。また、リストには『思い出―3つの悲愴的な様式による3曲』Op.15を献呈している。また、セザール・フランクからはオルガン曲『交響的大曲』嬰ヘ短調(Grande piece symphonique)Op.17を、アントン・ルビンシテインからは『ピアノ協奏曲第5番』作品94を献呈されている。


作風

アルカンはショパンと同様にほとんどピアノ作品のみを書き、リストと同様にピアノによる交響的表現を追求した。代表作には練習曲「鉄道」 (Op.27) 、大ソナタ「四つの時代」 (Op.33) 、長短全調からなり超絶的技巧を要する練習曲(長調のOp.35と短調のOp.39)などがある。Op.39の4・5・6・7番は「独奏ピアノのための交響曲」、また8・9・10番は「独奏ピアノのための協奏曲」と銘打たれている。後年になると技巧的な追求を潜め、「随想集」 (Op.63) のように簡潔ながら刺激的な作品を残した。この作品集では、教会旋法、半音階による無調的表現、トーン・クラスターなどの斬新な書法が登場する。また、ペダルピアノにも関心を持ち、作品をいくつか残している。

生前に彼の作品が演奏されることは少なかったが、特にリストに与えた影響は大きく、特にピアノ協奏曲第1番、およびピアノソナタ ロ短調はピアノ大ソナタの第2楽章が模範になっていると言えよう。前述のOp.39では調性感覚が同時代のそれと完全に乖離し、「序盤は○○調だが、終盤は△△調」といった感覚が一般に受け入れられるのは20世紀初頭であったことなどから、リストと同様に進歩主義的な感覚で西洋音楽の伝統を捉えていたことになる(正反対の態度をとった者にカール・ライネッケらがいる)。

また同じ運指(3-2-4-1)をどのポジションでも用い、なおかつ速く動かすといった概念も同時代の常識からかけ離れており、新たなピアニズムの開発へと繋がっている。


受容

死後、彼の作品は20世紀の初めごろまではフェルッチョ・ブゾーニやハロルド・バウアーなどのヴィルトゥオーゾ・ピアニストたちに取り上げられていたが、アルカンの作品を聴いていた聴衆の多くが第二次世界大戦時に失われたこと等を含め、完全に忘れられた。

再評価と共に演奏・録音の機会が増えたのは1970年代末に入ってからである。ロナルド・スミスによる「短調による12の練習曲」の全曲録音は発表当時大きな話題となった。その後マイケル・ポンティによる『短調による12の練習曲』抜粋の録音、金澤攝による1984年の全曲演奏とジャック・ギボンズによる1995年の全曲演奏が共にライヴでなされ、この頃からマイナーレーベルの注目を集めるようになった。現在ではマルカンドレ・アムラン、スティーブン・オズボーン、ステファニー・マッカラム、森下唯、飯坂健らのピアニスト達が普及に努めている。何故かアルカンのピアノ独奏作品は、英語圏で注目を集めることが多い。


Charles Valentin Alkan: Etude Op 17 - 'Le Preux' The Knight



Alkan: Trois Etudes de Bravoure: Prestissimo


Hirose plays Alkan "Le vent" from Trois morceaux dans le genre pathétique (Souvenirs)